| 忘れ物をと届けたある病院での出来事 |
ある病院での出来事。外来ロビーのソファに、薬の入った袋が置き去られているのを職員が見つけました。忘れ物です。調べてみると、その薬の持ち主である患者様は、1時間近く前に会計を済ませていました。他に用事がなければ、今ごろご自宅に着いている頃です。職員は、その患者様について、ご高齢で脚が悪いこと、次に来院されるのが2週間後であること、約1時間かけて通院されていることを確認。比較的手の空いたタイミングを見計らって、患者様のご自宅まで薬を届けました。患者様は非常に驚かれました。そして、困っていたところへ薬が届いてとても助かったと大変喜ばれたそうです。
この職員が患者様についてすばやく調べ、手間をかえりみずに届けに伺ったことは、医療機関においてはまだ珍しく、素晴らしい患者サービスです。「うちの病院も、職員みんながこんなふうに心優しく、患者様に尽くして差し上げる病院であったらいいのに」そう思う病院経営者・管理職の方々も多いことでしょう。 |
| 率先してサービスを行う雰囲気づくりができていますか? |
患者様に心からのサービスを行える職員を育てるために、教育研修は重要です。患者サービス研究所も、患者サービス・マインドを学ばせたいとの病院様からしばしばご要望をいただいており、研修を行なっています。しかし、それと同じくらい重要なのが、環境づくりであることをご理解いただきたいと思います。
冒頭のケースでは、職員が業務時間中に現場を抜けて、患者様のお宅まで忘れ物を届けることが許される環境があったからこそできたことなのです。みなさんの病院で同じようなことが起きた時に、職員が「忘れ物をお届けに行って来ます」と言える雰囲気があるでしょうか?「そんなことより、目先のことをきちんとやりなさい」「君には君の仕事があるだろう」「せめて、明日の予約の準備が済んでから、帰宅途中に寄ってあげなさい」と、その好意をとがめる人はいませんか?周囲が誰もバックアップしてくれない現場であれば、患者様のために届けたくてもできません。
職員みんなが「患者様のためには、今こうするべきだ」と考えた時に、信じた通りに行動できる環境は、職員から自然発生的に作ることはできません。つまり組織として環境づくりをすることが不可欠なのです。そこで今回は、そうした環境づくりのポイントを紹介しましょう。 |
| 組織ぐるみで意識・環境を変えよう |
まず第一に、経営者・管理職からのアナウンスを行ないます。「患者様のご要望には臨機応変にお応えしよう」「お困りの患者様にはできる限り助けとなろう」と、日ごろからこのような価値観を職員に伝えておくことが大切です。
次に、現場の責任者・リーダーにアナウンスを行ないます。「職員が、臨機応変に対応しようとする時、各現場ではそれをバックアップすること」「職員が患者様の助けとなりたいという時、リーダーはそれを認め、助け、褒めること」と声をかけてください。せっかく同じ価値観で職員が行動しようとした機会に、間違っても直接の上司が「目先のことをきちんとやるのが先決だ」などと水を差すようなことを言わないことです。患者サービスに対する職員のモチベーションが台無しになります。むしろ、「○○さんが患者様をお送りしてくるから、戻るまでの間そのポジションには□□さんが入ってくれるかな」「□□さんも1時間ほど業務が立てこむけど、○○さんが帰ってくるまで全員で乗り切ろう。みんな頼むよ」と、部署全体でバックアップするよう動くことが大切です。
最後に、経営者・管理職の方々が、いざという時に現場に入って、リーダーをはじめとした職員の方々のバックアップをすることです。経営者・管理職が、「臨機応変に患者様の助けになりなさい」とアナウンスする一方で、「患者サービスのために職員が抜けても、バックアップするのは現場の責任」などと超然としていたのでは、現場の職員は安心して患者サービスに気持ちを注ぐことなどできません。「自分が抜けたら現場が困る」「現場の人手が減れば、業務が滞る」そんな懸念を現場の職員が抱いている限り、冒頭のような心の通った患者サービスは決してできないのです。
「○○さん、ぜひ患者様に届けに行って差し上げて。頼むね」そのように、経営者・管理職の方がじかに頼めば、職員にはどんなに心強いことでしょう。経営者・管理職みずからが率先垂範して、臨機応変な患者サービスに気持ちを向けて臨んでみてください。組織がガラッと変わります。
「そこまでは普通やらないな・・・」とお考えになる経営者・管理職の方々へ。患者様にとって良いことで、さしてコストがかからないことのなかに、心遣いでできることであればぜひやってみましょう。明日、となりの病院が始めるかもしれません。 |
患者サービス研究所 三好 章樹
〈略歴〉
1965年生まれ、明治大学法学部卒業。
医療事務職員養成校専任教員、医療事務スクール運営事務局、医療機関専門人材派遣会社(株式会社日本教育クリエイト)営業兼コーディネーターを経て、2005年8月患者サービス研究所開設。
患者サービス向上、接遇マナー、モチベーションアップなどの講師として活躍中。
URL:http://www.pcs-c.com
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