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電子カルテのいま(第1回)

MEDICAL LEPIOS特集

電子カルテのいま 厚生労働省が策定した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」が発表されてから5年目。 今年度は、電子カルテ普及目標の達成年度である。 グランドデザインによれば、「平成18年度までに全国の400床以上の病院の6割以上、全診療所の6割以上」への普及を目標としている。 しかし現況を見るかぎり、目標達成には遠くおよばない。 期待された結果を残せなかった理由は、一体どこにあるのだろうか。
今回は、電子カルテ市場の現状と、導入事情を取り上げる。
補助金ストップとともに鈍化
電子カルテ普及率の推移を見ると、電子カルテ導入の補助金が交付された平成14年から平成 15年にかけての時期が著しく上昇したものの、その補助金が途絶えた平成16年度以降は明らかに普及が鈍化している。医療業界において、電子カルテの導入は大きな話題であったはずだ。しかし現状は、ほとんどの病院と診療所が「様子見」の姿勢でいる。電子カルテの普及率が伸び悩んでいる要因は、一体何なのであろうか。
電子カルテ分野におけるユーザー調査の結果をみると、導入による事務処理効率化といったメリットよりも、切換時の診療の混乱や入力作業の手間といったデメリットを指摘する声が大きいことに驚かされる。紙カルテに慣れている人々からの反発もある。従来どおりの方法で何ら支障がなかったから必要ないとの考え方だ。電子カルテ導入メリットをユーザー側に浸透できなかったことが、今日の結果を生み出している。
熾烈なメーカーシェアの争奪
病院向け電子カルテ市場においては、大規模病院から中小規模病院まで幅広く展開し販売力に優れる富士通がトップシェアを誇る。これを追うのが、提携関係にあるNECとシーエスアイの連合組。さらに、中規模病院で強みを発揮するソフトウェア・サービスが続いている。この上位4社で、市場のほぼ4分の3を占有しているのが現状だ。そのほかにも、IBM、亀田医療情報研究所、東芝住電医療情報システムズといった企業が名を連ねる。今年1月、NECとシーエスアイが提携を発表し、電子カルテ製品のブランド名を「MegaOakシリーズ」に統一するに至った。大規模病院に強いNECと、中小規模病院を主力とするシーエスアイが連合したことで一気にシェアを拡大し、首位の富士通を猛追する考えだ。
診療所向け電子カルテ市場においては、ビー・エム・エルと三洋電機の両社がトップシェアを争い、勢力が拮抗している。この2社だけで、診療所向け市場のほぼ半分を占める状況だ。これに、ダイナミクス、ラボテックが続く。病院向け市場ではトップシェアの富士通だが、診療所向け市場では上記4社の後を追うかたちとなっている。ここでも上位4社が、市場のほぼ4分の3を占有している。そのほかにも、アガペ、東芝メディカルシステムズ、油井コンサルティング、島津製作所といった有力企業が名を連ねるがシェアは伸び悩んでいる。
市場を襲う寡占化の波
医療施設のIT化を時代の潮流と捉え、技術力を誇る電機メーカーやシステム開発企業が多数参入したものの、病院向け・診療所向けともに市場は寡占化に向かっている。電子カルテの特徴のひとつが「施設間の連携と情報共有」にあるのだから、病院や診療所が多数派のシステムを導入しようと考えるのは当然だ。さらに追い討ちをかけるように、普及率が伸び悩みをみせる現状においては、市場撤退を余儀なくされる企業が出る可能性もある。しかし、今年4月の診療報酬改定によって「電子化加算」が新設されたことは明るい材料となった。この「電子化加算」によって、電子カルテ普及率の伸びに勢いが戻れば、市場は再び活性化する可能性を秘めている。
特定診療科への特化
新規参入メーカーの生き残りをかけた手法として、「特定の診療科に特化したシステムの開発」がある。
広範な診療科をカバーする汎用的な電子カルテについては、既に導入実績のある大手メーカーに「利」がある。一方、シェアの小さい新規参入組では、診療科を絞り込むことで使い勝手のよいシステム開発に取り組む傾向がある。もともと電子カルテは診療科によって運用方法が大きく異なるのであるから、特定の診療科に特化したシステム開発の方が実用的である。実際に、総合病院等における電子カルテ化よりも、小規模な病院や診療所における電子カルテ化の方が順調かつ急速に進行しているという。さらに特定の診療科への特化が進めば、従来なら電子カルテ化が困難と言われた診療科向けのシステム開発が発展し、利用者の利益にもつながる。「特定の診療科への特化」は有効な戦略と言えるだろう。
運用目的が限定的で明確な、小規模病院や診療所に成果
厚生労働省の電子カルテ普及調査(平成16年4月現在)によると、全国の87.8%の二次医療圏で少なくとも1施設において、電子カルテシステムが導入されていることが分かっている。
また、全国にある400床以上の病院の11.9%(99施設)において、医療機関全体として電子カルテシステムが導入されている。
診療所については、2.6%で電子カルテが導入済みとなっている。 導入実績をみるかぎり、日本における電子カルテの普及は始まったばかりの段階である。
電子カルテ導入は大仕事
「電子カルテを導入する行為は、知らない病院へ引越しするのと同じだ」と、ある医師は言う。それほど、戸惑いと混乱を招きやすいという意味であろう。特に大規模病院においては、職員全体のチームワークなくして達成しえない大仕事となる。総合病院において、診療科毎の事情を充分検討しないまま導入に踏み切り、却って診療効率が低下し、結局運用されない状態に陥ることもある。多額の費用を要する電子カルテ導入であるから、こうなっては取り返しがつかない。多くの病院が導入に慎重になるのもうなずける話である。電子カルテに対する多くの期待や目的が混在し、導入によって如何なる成果が見込めるのかさえ見えにくくなっている。
供給側の体制の脆弱さ
電子カルテの普及率が伸び悩む要因は、医療施設側の事情ばかりではない。供給しているメーカー側の体制が脆弱であることも影響している。通常、パッケージの電子カルテを導入するにも、半年から1年弱程度の期間を必要とする。導入に際しメーカースタッフが長期間にわたって拘束されるため、一度に多くのクライアントを相手にすることができない。たとえ、電子カルテの需要が高まって発注が集中したとしても、普及率が急激には上昇できない構造にあるのだ。
総合病院の成功例はなぜ少ないのか?
総合病院における電子カルテ化が低迷している一方で、小規模な病院や診療所での電子カルテ導入は順調で成功事例も多い——こうした指摘をよく耳にする。小規模病院や診療所では運用目的が明確であるゆえに、電子カルテの効果が表れやすいからだ。扱う疾患や診療の形式は診療科ごとに違い、これに対応する形で電子カルテ形式も異なるのが本来的である。しかし、診療科の複合体である総合病院では全診療科に共通な電子カルテを使用する。これは、医療業務の中央管理には有効であるが、診療精度の向上にはつながり難い。今後の課題として、総合病院でも採用可能な「診療科別電子カルテ」の開発をさらに検討すべきであろう。
導入を成功させるために
導入に際し第一に行うべきことは、「電子カルテで何をしたいか」を明確にすること。電子カルテが持つ機能は一様ではなく、製品によって得意機能や不得意機能がある。「何をしたいか」が明確でないと、必要とする機能を見極めることができない。
もし、患者に対する病状の説明を充実させたいのであれば、「カルテを開示する機能」や「検査結果を抽出する機能」が重要となる。コストの削減を図りたいのであれば、「医師が医事会計処理までできる機能」が重要となる。検査データ等を効率よく管理したいのであれば、「グラフや図表等で比較できる機能」が重要となる。詳しく疾病の分析をしたいのであれば、「全てのカルテからのデータ検索・抽出機能」や「統計数値を分析する機能」が重要となる。これらの目的が複数に及ぶ場合には、そのプライオリティを明確にしておく必要がある。
診療スタイルからみた選択基準
電子カルテの開発企業の中には、医療機器メーカー、レセコンメーカー、ソフト開発企業、臨床検査会社といった様々な分野から参入した企業が混在している。そのため、各社それぞれに開発経緯や開発目的が異なり、製品特徴の多様性となって表れる。その中から、自分の病院や医院の業務に適合した電子カルテを選ぶためには、自らの診療スタイルを正確に認識することが重要となる。
たとえば、レントゲン撮影等の検査映像の量が多いのであれば、医療機器・画像ファイリングシステム・電子カルテが連動できるものを選択すべきである。1日あたりの外来患者数が多いのであれば、1人あたりの診察時間が短いから、記入時間を短縮させるための機能を重視しなければならない。診療に専念したいのであれば、電子カルテとレセコンが別個の製品であるものがよい。反対に、診療報酬請求も医師自らがかかわりたいのであれば、電子カルテとレセコンが一体化した製品を選択するべきであり、レセコン機能を含む全ての機能を診察室で操作できるものが最適である。特定の疾病が大部分を占めるなど定型的な診療の比率が高い場合や、慢性疾患患者の比率が高い場合には、オーダーセットを簡単に作成できるものや、Do処方の操作が容易にできるものを選択すべきである。